LOGIN「むっはー! おいしい! おいしい! おいしい以外の言葉が出てこない!」
「へへへっ、そう喜んでくださるとあっしも作りがいがありますねえ」少女はウスターソースでべちゃべちゃにしたコロッケを丼飯に載せ、タルタルソースをたっぷりつけたエビフライをさくさくとかじる。アジフライには中濃ソースを細く垂らし、小骨も気にせずばりばりと咀嚼した。
口の中が油でギトギトになったら味噌汁でそれを洗い流し、柔らかくみずみずしいマグロの刺身にわさびをたっぷりつけてぱくり。続けて即席コロッケ丼をわしわしとかき込んで、また味噌汁を一口すする。
「ううーん、最高すぎます! お姉さん、ごはんおかわり!」
「あいよっ、大盛りにしとくぜ! ……あれ、お客さん? うしろのそいつぁ、一体何だい?」 「うしろ?」女が怪訝な顔で目をこすりつつ、少女の背後を指さす。
少女が振り向くと、そこには禍々しい気配を放つ、人型にわだかまった黒い「これは悪霊ッ! この悪霊の邪気でお客さんが寄り付かなくなってるんです!
一瞬、店内に清浄な風が巻き起こる。
黒い靄が吹き散らかされ、みすぼらしい老人の姿が明らかになった。老人は片手に赤く塗られた細い棒を持ち、もう片手に紙束を握りしめて震えている。目も、鼻も、口も、黒くポッカリとした穴のようで、とても人間の「くっ、先ほどまでとは邪気が桁違いに……。一体このわずかな時間で何が!?」
じりじりとにじり寄る老人の霊に、少女が立ちふさがる。
「と、とても危険な状態です。お姉さんは逃げてください」
「あ、悪霊ってマジでいたのかよ……」 「わかったなら早く逃げて!」 「ああン!? 待ちやがれ、この店はあっしの城だ! 城から逃げ出す大将がどこにいるってんだ! これでも喰らいやがれっ!」 「ちょっ、何を!?」女はカウンターの小壺に手を伸ばすと、中身を悪霊に向けてぶちまけた。
桃色の砂状のものが悪霊に降りかかる。「何してるんですか!?」
「塩だよ塩! 悪霊退治っていえば清めの塩だろうが!」 「そんなもの効くわけが……あれ?」悪霊を怒らせるだけだ、と思った少女の目が丸くなる。
わずかではあるが、悪霊の邪気が弱まっていたのだ。にじり寄る足を止め、その場で『お゛お゛お゛お゛』とうめき声を上げている。「う、嘘でしょ? お清めの塩は祝詞を捧げた海塩じゃないといけないのに……」
「へっへっへっ、霊験あらたかなヒマラヤ産ピンク岩塩よ。高ぇ金払って仕入れた甲斐があったってもんだぜ」そんなわけはない。
少女には、先ほどの塩から一片の霊力も感じ取れなかった。どれだけ希少な塩だろうが、それだけで除霊の力が宿ることなどはありえないのだ。 となれば、この岩塩と悪霊の間には何か関係があることになる。現世に残した悔いや恨みにまつわるものに、悪霊は反応するのだ。「お姉さん、何かこの悪霊におぼえはありませんか!? お客さんと喧嘩になって、岩塩の塊で殴り殺して魚の餌にしちゃったとか!」
「ンな物騒なことするかいバカヤロウ! あっしを何だと思ってやがるんだ!」 「す、すみません。ちょっとやりかねないなと思って」 「ちっ、失敬な野郎だ。悪ぃが他人様に恨まれるおぼえなんてひとつもねえよ。しかし――」赤髪の女が目を細めて悪霊をじっと見る。
確かにその目つきは凶悪で、少女が殺人の嫌疑をかけたのも無理はない。「なんか見覚えがあるんだよなあ……この悪霊のツラ」
「ちょ、ちょっと! あまり近づくと危ないですよ!」女はカウンターに身を乗り出して、悪霊の顔をまじまじと観察する。
女の顔に恐怖はない。あくまでも何かを思い出そうとする様子だ。普通の人間であれば、悪霊に出会った瞬間に震えて腰が抜けてしまうものなのだが、やはりどこかネジが外れた人間なのではないかと少女は思った。「ひょっとして、
悪霊が、ぶるりと震えた。
真っ暗な眼下から、タールのような粘液がだらりと垂れる。「心当たりがあるんですか!?」
「ああ、常連のじいさんでな。競馬狂いで、いつも負けが込んでてもやし炒めしか注文しねえんだが、たまーに勝つと豪快に注文してくれてな」女が悪霊の前に競馬新聞を放ると、悪霊はそれを丹念に眺めながら赤い棒でなぞるような仕草をはじめる。
「あの棒って、もしかして赤鉛筆?」
「そうそう、いつもちびた赤鉛筆を持ち歩いててな。土日ってなると角の席でしこしこ競馬新聞とにらめっこよ。200円のもやし炒めで粘られっからこっちも往生してたぜ」 「そ、その方はどうなられたんですか?」 「先週万馬券を当ててなあ。その場でひっくり返っちまった。救急車ぁ呼んだが、間に合わなかったか……。南無三。アーメンソーメン味噌ラーメン。迷わず成仏してくれよ」女が片手で手刀を切る。
そのあまりにいい加減な仕草を少女は思わず咎めようとするが、女の面持ちは至って真剣であった。目の端に涙をためて、泣き出すのを我慢しているように見えた。「あの、確認なんですが……」
「ああン、なんだよ?」 「その方って、競馬で勝ったときはどんなものを注文してたんですか?」 「そりゃおめえ、決まってんだろ。うちで一番高ぇメニューは松定食さ」 「なるほど、それです!」少女は大きくうなずき、叫んだ。
「お姉さん、松定食、もうひとつ追加で!」
【速報です。東京地検特捜部は与党我民党幹事長、波洲沱氏宅の強制捜査を開始し――捜査のきっかけは通称『怪盗ラクーンアイ』が公開した資料と見られ――】「おお、すごい! またラクーンアイが大手柄ですよ!」「ううん? そうか、そりゃあよかったなあ」「うわー、めちゃくちゃ興味なさそう」 間田木食堂に突然の珍客があってから数週間。 今日もトウカはカウンターで食事をしながらリョウコと雑談をしている。今日のメニューは唐揚げ定食。間田木食堂の唐揚げはひとつひとつがとても大きく、かぶりつくと肉汁が垂れてくるほど瑞々しい。これにマヨネーズをたっぷりつけて食べるのが最近のトウカの流行である。 ところで例の珍客――タヌキだが、商店街の獣医に預けたところ、しばらくして逃げ出してしまったらしい。 銃創なら警察にも届ける必要があったのだが、肝心の証拠であるタヌキが消えてしまったのでそのあたりのことはうやむやになっていた。逃げ出すほどの元気を取り戻しており、リョウコの応急処置も適切であったことから、タヌキ自体の心配はないだろうとは獣医の言葉だった。「つうかよ、なんでトウカはそんなになんとかアイってのが好きなんだよ?」「だって怪盗でそのうえ義賊ですよ! きっとこう、背が高くって、スラッとして、ニヒルな笑顔が似合うクール系イケメンに違いありません!」「はあ、うちの常連みてえな中年太りのおっさんかもしれねえぞ?」「もうー、やめてくださいよ。リョウコさんは夢がないなあ」 そんな益体もない話をふたりが続けていると、ガラリと音を立てて店の引き戸が開けられた。 入ってきたのは十代後半程度に見える少女。茶色のショートボブで、くりっとした垂れ目気味の目に愛嬌がある。どこかタヌキのような雰囲気のあるその少女は、怪我でもしているのか左足を少し引きずっていた。「いらっしゃい、好きな席にどうぞ」「えっと、ここでもいい?」「へい、もちろんかまいやせんぜ」 少女はカウンター席に座る。 そしてそわそわした様子で店内をきょろきょろと見回していた。 その様子に気がついたリョウコが声をかける。「お目当てのメニューが見つからないんですかい? うちは品数多いっすからねえ。とりあえず言ってもらった方が早いかもしれないっすよ。メニューにないもんでも、できる範囲でやらせてもらうん
高級住宅街の屋根屋根を飛び越えて、ひとりの少女の影が走る。 覆面に顔を隠し、身体には濃紺色のレオタードをぴったりとまとっている。その軽やかな動きは、人間と言うよりもまるで1匹の野生動物のようであった。「くそっ、捕まえろ! ラクーンアイが出たぞ!」「絶対に逃がすな! あの書類が流出すればお館様もただでは済まん!」 地上を走って追いかけるのは黒服の男たち。 しかし、夜空を自在に駆ける少女に翻弄され、いくら懸命に追っても距離が縮まらない。それどころか、徐々に引き離されつつある。「くっ、仕方がない。発砲を許可する! 撃て、撃て!」 リーダー格の男がそう叫ぶと、黒服たちは懐から一斉に拳銃を抜いた。 3Dプリンター製の簡易なものだが、殺傷力は十分にある。おまけに、使用後は焼いてしまえば証拠が残らないため、近頃闇社会で流行っているものだった。 閑静な住宅街に、何発もの銃声が響き渡る。 そのうちの一発が少女の太ももをかすめた。思わず苦鳴を洩らす少女だが、その動きに衰えはない。やがて黒服たちを振り切って、遠く離れた商店街まで逃げ切った。 その一角の、いくらか古びた定食屋の前で、いよいよ少女は力尽きる。 その場に倒れて、動かなくなってしまった。 * * *【今夜の特集は『怪盗ラクーンアイ徹底解剖! その正体に迫る!』です。お楽しみに】「おお、リョウコさん、今日はラクーンアイの特集をするみたいですよ!」「ああン? なんでえ、そのなんちゃらアイってのは?」 少々うらぶれた商店街の一角、間田木食堂では今日も赤髪の女――間田木リョウコと、やたらに入り浸っている巫女服の除霊師――稲荷屋トウカがテレビを見ながら話をしていた。「ええー、リョウコさん知らないんですか? 近頃巷を騒がしている怪盗ですよ。悪い政治家やお金持ちから悪事の証拠を盗んで、ネットに公開してるんです!」「ふーん、世直しってやつかねえ。奇特なやつもいたもんだ」 リョウコは興味なさげに手元でなにやら作っている。 といっても実に簡単なもので、丼に盛った白飯に天かすを載せ、自家製のめんつゆをさっと回しかけて小ネギを散らしただけのものだ。「むむっ、リョウコさん何を作ってるんですか?」「ああ、もうオメェは本当にめざといなあ。たぬき丼だよ、たぬき丼」「へえ、おいしそうですねえ。私にも一杯ください
リョウコは、まず冷蔵庫からひき肉を取り出した。 それを大きなボールに開け、塩を振る。「あれ、お肉しか入らないんですか?」「いや、色々足すのは後からなんだよ。まずは肉と塩だけで練らねえと粘りが出ねえからな」 トウカの疑問に答えながら、リョウコはビニール手袋をはめて肉を練っていく。 数キログラムはある肉塊が、徐々に粘りを帯びていった。肉をちぎって、断面が毛羽立つ程度になったら次の工程だ。「こいつにな、荒く刻んだ玉ねぎと、生卵、ナツメグとコショウを加えてさらに練っていく」「玉ねぎは生なんですねえ」「炒めてからでもかまわねえぞ。そのときは肉に火が通らないよう一旦ちゃんと冷ましてからな。あっしは玉ねぎのシャキシャキが残ってた方が好みなんでな、生にしてるんだ」 リョウコとトウカが話していると、そこに冨桐も加わってくる。「パン粉や牛乳も入れないのかい?」「へい、まずパン粉だが、うちのハンバーグはデカいんでね。下手に入れると焼いたときに膨らみすぎて割れちまう。それで肉汁が逃げちまうんですわ。牛乳は味を薄めずに水分を足す役割があるンすけど、生玉ねぎを使ってるんでね。水っぽくなりすぎるんで入れてないってわけで」「なるほど、ボリューム感を追求したが故のシンプルなレシピというわけか……」「まあ、そんな大層なもんじゃありませんが、味と量にはそれなりにこだわってはいますかねえ」 冨桐はメモ帳とペンを取り出してなにやら書き付けはじめた。「ところで肉はどんなものを使っているんだい? 企業秘密ならもちろん答えなくていいが……」「普通の牛と豚の合い挽きですぜ。牛が6、豚が4のやつだ。脂が足りないときには肉屋の方で牛脂を足してもらったりしてますがね。まあ、長年付き合いがあるんで阿吽の呼吸ってやつで」「読者や編集に対する信頼感にもつながる話だな……」 冨桐はペンを走らせ続けている。 リョウコは、よくわからない話がはじまったと思い、何も答えず練った肉を丸めて整えはじめた。それを順番に金属製のトレーに載せていく。「はい、これで一丁上がりと。簡単だろ?」「へえ、ハンバーグって家庭科の授業で作ったきりですけど、もっと色々材料があって面倒くさいイメージでした」「色んなもんを加えて試してみるのも面白れぇけどな。肉の配合、玉ねぎの分量、
年の瀬もやや押し迫ってきた頃。 行き交う人々が少々足早になるその季節、商店街の一角に間田木食堂はある。 何の因果か悪霊や妖怪のたぐいが引き寄せられ、それを料理で祓ってしまうと噂の謎多き店だ。 その間田木食堂に、悩める男が今日もまたひとり――「ぜったいにこれは悪霊の仕業なんだ! もったいつけないで助けてくれ!」「ンなこと言われましてもね、ここは単なる定食屋で、あっしはただの料理人でして」「うう……どこの除霊師に頼んでも霊なんかついていないと言われ、噂に聞いたこの店だけが最後の頼みだったのに……」「あー、わかんねえっすけど、それなら悪霊がついてなくてよかったじゃありやせんか?」「よくないっ! それでは僕の悩みが解決しない!」「はぁ、うちはお悩み相談所のたぐいでもないんですけどねえ」 カウンターを挟んで、ベレー帽をかぶった男と赤髪の女――間田木リョウコがなにやら話している。 男の表情は必死そのものだが、対するリョウコは困惑している。リョウコには霊感などないし、過去に除霊を手伝ったのも成り行き上のことである。除霊師の間で店の噂が広まっているとは聞いていたが、こんな客に来られても対応のしようがないのだ。「悪霊は、この中に――あれ、今日はいないですね」「おお、トウカ。いいところに来た。このお兄さんの相談に乗ってやってくれよ」 ガラリと引き戸を開けて現れた巫女服の少女は稲荷屋トウカ。 黙っていれば日本人形のような愛らしい美少女なのだが、美味そうな料理を見るとよだれを垂らす食いしん坊と化すのが玉に瑕だ。本職の除霊師であるトウカがやってきたので、リョウコはこれ幸いとバトンタッチすることにした。「なんです、悪霊関連の相談ですか?」「あ、あんたはこの女の弟子っていう新米除霊師だな! 除霊師ランキングにも載っていた!」「えへへ、新人除霊師ランキング第4位の稲荷屋トウカです。リョウコさんの弟子っていうのはちょっと違うんですけど」「細かいことはどうでもいい、僕に憑いた悪霊を祓ってくれ!」 すがりついてくる男に、トウカもまた困惑する。男には、悪霊の気配など微塵も感じられないからだ。 リョウコに視線を送ると、「こういうわけだからよろしく頼むわ」という表情をしている。トウカは「ひとつ貸しですよ」という意味のことを目顔で返した。「ええっと、まずは具体的に
平日の真っ昼間にもかかわらず、通行人もまばらな商店街。 その片隅に『本日定休日』の張り紙をした食堂がある。 店の名は間田木食堂。年季の入った2階建てで、1階は食堂となっている。 正午をまわる寸前で、その2階で赤髪の女が目を覚ます。「あー、くっそねみぃな。昨日は飲みすぎたか……」 洗面所で雑に顔を洗い、歯を磨く。 昨晩は常連のひとりである外国人女性(と、リョウコは思いこんでいる)のメリーさんと、パートナーの八尺様が閉店寸前に訪れていたのだ。メリーさんは絡み酒であり、やたらと奢ってくれるのでリョウコもすっかり飲み過ごしていた。なお、八尺様は人見知りをするのか、「ぽぽぽ、ぽ」と何かを言いかけているところしか見たことがない。「うー、腹減ったな。冷蔵庫になんかあったっけ……」 いい加減に見えるリョウコだが、仕事とプライベートはきっちり分けている。 店で使った食材は、基本的に廃棄寸前にならなければ自分で食べないし、調理場も自分の生活スペースである2階と、営業スペースである1階で使い分けているのだ。 なお、これは以前に『マルサの女』という映画を見てからの習慣である。惣菜屋の夫婦が、売れ残りを自分たちの食事にしていてとんでもない追徴課税を受けていた。悪霊だの妖怪だのは恐れないリョウコだが、税務署や保健所など、自らの商売に直結するお上に対しては大きな恐れを抱いていた。 冷蔵庫を開けて、眠たい顔をしかめつつ中にあるものを確認する。 生卵と、ラップで包んだ豚バラ肉の塊があった。肉の正体は自家製のベーコンである。ソミュール液(香辛料を加えた塩水)に1週間ほど漬けておき、りんごの木で燻したものだ。店で出せるほどの量は作れないので、完全にリョウコが自分で食べるための趣味の品だ。「こいつを薄切りにしてから……あー、どうすっかなあ」 ベーコンを適当に薄切りにした後に、赤髪をかきむしりながらキッチンを見渡す。 髪を触るのは不衛生なので店では一切やらない。こういう気遣いをしなくてもいいことも、リョウコが店とプライベートで調理場を完全に分けている理由のひとつである。「今日はそうだな……パンでも食うかあ」 リョウコは、4枚切りの分厚い食パンを棚から取り出す。 懇意のパン屋から買っているものだ。店では当日に仕入れたものしか使わないが、自分で食べる場合には適当
「おうこら、トウカ。いきなり出てきてこんな姉さんをババア呼ばわりはねえだろうが」「いや、おばあちゃんなんですよ、私の」「こんな若いババアがいるわけ……って、トウカのバアちゃん!?」「ほほ、孫が世話になっているらしいのう。どうもきっかけがなくての、自己紹介が遅れたが、妾はトウカの祖母、稲荷屋テンコじゃ」「はあー、こんなべっぴんさんがおばあちゃんとはねえ……」 リョウコは目を丸くし、稲荷屋テンコを名乗る女を見る。 妖艶に着物を着こなし、柳のようにしなやかに座る様子は美人画から抜け出してきたようだ。見た目から想像できる年齢は高く見積もってもせいぜいが三十代前半。三十路前だと言っても通用するだろう。「ほほほ、若作りを褒められてもそう嬉しいものではないものじゃ。きっかり還暦のババアじゃよ」「還暦ってことは六十歳かあ。まるで見えねえなあ……」 リョウコは改めてトウカを見る。 この少女――見た目は十代半ばの少女にしか見えないが、実際は二十歳を超えて成人済みである。酒もよく飲むし、アテも漬物やイカの塩辛など、年寄りじみたものを案外好むのだ。どうやら、稲荷屋の家系は代々若く見えるのだろうとリョウコは一人で納得した。「それで、間田木殿の元で修行に励んでおるという話じゃが、どんな料理が作れるようになったのかの?」「へ、修業? トウカにゃちょくちょく店を手伝ってもらってやすが、修業ってえほどの――」「ままま毎日がんばってますよ! 料理の腕だってめきめき上達中です!」「ほほほ、そうか。では何か一品作ってもらおうかの」 トウカはリョウコの言葉を強引に遮り、会話に割って入った。 そして急ぎ足でキッチンに入り、リョウコに小声でささやく。(私、ここで修行してることになってるんで話を合わせてください!)(ええ、どういうこったい?)(実家にいるとおばあちゃんの修業が厳しすぎるんですよ……。それで、リョウコさんに修業をつけてもらってるってことにしてて)(はあ、しかし、オメェにまともに料理を教えたことなんてほとんどねえぞ?)(なので、練習不要でさっとおいしく作れるものをいま教えてください!)(おいおい、なんだそりゃあ。まあ、貴重な臨時バイト兼常連さんの頼みだ。かまわねえけどよ)(やったー! リョウコさん、大好きです!) リョウコはとあるレシピをトウカにそっと